ディスコブームという時代があった。今から30年程前である。当時のヒットチャートはディスコにかかる曲、すなわちノリのいい踊り易い曲が大量に作られた。ノリがすべてであり、アーティストが誰であってもディスコ調の曲でないとヒットしなかった。そのため実績のあるミュージシャンでさえもディスコを意識して曲を作らざるを得なかった。あの頑固一徹正統派ロックの頂点にあったストーンズでさえもそうである。大抵の著名ミュージシャンがディスコミュージックと呼べる曲を作った。逆にいうと無名のミュージシャンであってもヒットを出す事は容易であった。ライブをやらなくてもディスコでレコードがかかり、ラジオでオンエアーされればよかったのである。このブームにのって、多くの無名のアーティストが次から次へとデビューした。今でも鑑賞に堪える曲もあれば、なぜこんな曲がヒットしたのか首をかしげる曲もある。ここで紹介するボニー・Mはそういう時代にデビューした。玉石混交の時代にデビューしたのだが、そのなかでも特に際物扱いだったような気がする。しかし、彼らの曲は今聞いても古さを感じさせず、新鮮である。カヴァー曲は最上のカヴァーでありオリジナルをはるかに越えた曲に仕上げている。この「バビロンの河」もジャマイカのメロディアンズというグループが歌った曲のカヴァーであるらしい。しかし、「バビロンの河」といえばこのボニー・M以外には考えられない。曲紹介の前に彼らのプロフィールを簡単に紹介しよう。
ボニー・Mは’75年にスタジオミュージシャンを集めて結成された。メンバーは、ボビー・ファレル、メイジー・ウイリアムス、リズ・ミッチェル、アルシャ・パレットの4人である。今彼らがどういう活動をしているのか全く手がかりがない。先にジャケットのことに触れたが、ここに出したジャケットは彼らのジャケットの中ではかなりまともなジャケットで、大抵はキワモノ扱いされて当然のすさまじいものである。脱線してしまったが、デビュー後の彼らの曲はヒットの連続であった。デビュー・シングルの「ダディー・クール」は当初、企画版ということで彼らの活動も恒久的には考えられていなかったようであるがこの曲がヨーロッパ中で大ヒットしその後’76~’79年にかけて9曲をトップ10入りさせている。
さて、この「バビロンの河」は78年にチャートインし5週連続のNo.1となった。そればかりでなく出入りの激しい全英で40週に渡りチャートに居座り続け全英チャート歴代4位の記録(200万枚)となった。聖書を少しでも知っている人なら「バビロン」と聞いたらすぐに旧約聖書を思い起こされるだろう。まさしく出展は聖書の詩篇137である。イスラエルの民がバビロニアに進攻されバビロンに連れていかれ(バビロン捕囚)その地で故郷を懐かしみシオン(イスラエル)が見えるバビロンの河で嘆き悲しみかつ故郷に帰る執念を込めて歌った歌である。該当箇所を引用しよう。
(新共同訳)
バビロンの流れのほとりに座り/シオンを思って、わたしたちは泣いた。
竪琴は、ほとりの柳の木々に掛けた。
わたしたちを捕囚にした民が/歌をうたえと言うから/わたしたちを嘲る民が、楽しもうとして/「歌って聞かせよ、シオンの歌を」と言うから。
どうして歌うことができようか/主のための歌を、異教の地で。
エルサレムよ/もしも、わたしがあなたを忘れるなら/わたしの右手はなえるがよい。
わたしの舌は上顎にはり付くがよい/もしも、あなたを思わぬときがあるなら/もしも、エルサレムを/わたしの最大の喜びとしないなら。
主よ、覚えていてください/エドムの子らを/エルサレムのあの日を/彼らがこう言ったのを/「裸にせよ、裸にせよ、この都の基まで。」
娘バビロンよ、破壊者よ/いかに幸いなことか/お前がわたしたちにした仕打ちを/お前に仕返す者
お前の幼子を捕えて岩にたたきつける者は。
バビロンに対する強烈な復讐心が表れている。「バビロンの河」はこの前半部分からの引用である。
By the rivers of Babylon, there we sat down
ye-eah we wept, when we remembered Zion.
By the rivers of Babylon, there we sat down
ye-eah we wept, when we remembered Zion.
When the wicked
Carried us away in captivity
Required from us a song
Now how shall we sing the lord’s song in a strange land
When the wicked
Carried us away in captivity
Requiering of us a song
Now how shall we sing the lord’s song in a strange land
Let the words of our mouth and the meditations of our heart
be acceptable in thy sight here tonight
(途中で部分的に繰り返されます)
なぜ、聖書のこの箇所が引用されたか不明であるがディスコミュージックは、冒頭に書いたがノリがすべてであった時代にこの詩と曲は完璧にマッチングし、大ヒットとなった。曲もいいが詩も改めて噛締めて聞きたい。
コメント
中学生のときに、心に響いたこの曲をGWに40年ぶりに聴きました深い詞を楽しげに歌っていたのですね☀想えば、ボニーMにとって、歌は、苦しかった過去との決別を約束して、新しい人生を切り開いた、解放者だったのでしょうか。素晴らしい詩編、サウンドに私の鼓動が共鳴します